研究会 第Ⅷ期(2015~2017年度)
界面ナノ科学研究会 委員長:一杉 太郎 (東京工業大学大学院 教授)
●研究会のコンセプト
“界面はデバイスそのものである”と、ノーベル賞受賞者であるKroemer 博士は喝破した。これはシリコン半導体素子や半導体レーザー素子を想定した言葉であったが、今、この一言は色あせるどころか、ますます輝きを増している。
ナノテクノロジーの進展に伴い、原子レベルで制御された構造作製や、一つ一つの原子や分子を操ることも可能となってきた。そして構造が微小化するにつれ表面の効果が顕在化し、表面上に形成する界面が物性を決定づける要素となっている。持続的発展可能社会の担い手でもある太陽電池や蓄電技術は、原子レベルでの界面制御の場である。そして将来的には、量子効果と多元素による新機能の組み合わせによる全く新しい可能性も期待できる。
さらに、表面・界面研究は各種ナノ計測技術進展の牽引車ともなっており、 科学研究の知識と技術の源泉と言っても過言では無い。近代科学では、 従来の物理、化学、無機物、有機物という縦割りは用をなさない。その先鋒 である“界面ナノ科学”は、多くのフィールドの研究者の知恵を動員して開拓 すべき一大研究領域である。そのような多彩な研究者が集まってなされる活発な議論こそが“表面・界面”であり、そこから新たなナノ科学が花開くことを狙う。
バイオ単分子研究会 委員長:西野 吉則(北海道大学電子科学研究所 教授)
●研究会のコンセプト
生命現象を動的な分子レベルから理解することは、生物学の究極の目標の一つである。これは量子力学的な「デジタル」世界と古典統計力学的な「アナログ」世界とを結び付けるという、自然科学の壮大な問いにも通じる。特定の立体構造をもったタンパク質分子やその複合体は、あるものは精密な「デジタル」な分子機械として振る舞う一方で、あるものは熱的なゆらぎを受けて「アナログ」な動的機能を発現する。DNAを介して「デジタル」な遺伝情報は次世代に正確に受け継がれるが、エピジェネティックな制御により「アナログ」で多様な表現型に道が開かれる。さらに、生物は雄大な時間スケールで大進化を起こす。このように、生物は、確実な動作や情報伝達を行うデジタルな世界と、多様性と個性をもったアナログな世界を巧みに使い分けて自らを制御している。
多数の分子のアンサンブル(集団)平均や時間平均ではなく、生物試料を、生きた細胞の中や生きているに近い環境で、分子レベルで理解するには、多岐に亘る革新的な技術開発が求められる。
本研究会では、様々なプローブを用いた単分子レベルでの計測技術や、細胞の動的制御技術、さらには情報科学や理論など、様々なアプローチから、生命現象の動的な分子レベルからの理解を目指す議論を交わすことを目的とする。
スピントロニクス研究会 委員長:大谷 義近 (東京大学物性研究所 教授)
●研究会のコンセプト
スピン変換は、角運動量保存則に基づく、電気、光、音、振動、熱の相互変換現象の総称であり、スピントロニクス研究の根幹を担うものである。この中には、スピンホール効果、逆スピンホール効果、スピンゼーベック効果、スピンペルチェ効果、純スピン流誘起磁化反転、絶縁体へのスピン注入、スピン起電力、強磁性超薄膜の磁気異方性電圧制御など、最近発見された関連現象が数多く含まれる。これらのスピン変換現象の多くは、磁性体、非磁性体、半導体、絶縁体等の異種物質の比較的単純な接合界面近傍のナノスケールの領域で発現する。このため、スピン変換現象は優れた汎用性・応用性を持っており、様々な物質の接合種を選択できることから自由度の大きな機能設計が可能である。
本研究会では、日本のスピントロニクス研究の中心メンバーが集まり、こうしたスピン変換現象を遍歴スピン、マグノン、フォノン、フォトンなど多様な粒子・準粒子間の相互変換として実験と理論の両面から統一的な理解を目指し、最終的には新しいスピントロニクス機能を提言することを目標とする。
ナノカーボン研究会 委員長:片浦 弘道(産総研 首席研究員)
●研究会のコンセプト
ナノカーボンとは、少なくとも1次元方向の大きさが100ナノメートル以下の炭素材料であり、「ナノ」が引き出す魅力的な物性を示す。特に炭素sp2ネットワークは構造柔軟性が高く、フラーレン(0次元)、ナノチューブ(1次元)、グラフェン(2次元)等、多彩な新材料群が見出され、その優れた基礎物性から次世代半導体材料などとして期待されている。これらナノカーボン材料の合成・精製技術の近年の進展は著しく、特定の原子配列の構造体の合成や分離精製も可能になってきており、その物性解明も進みつつある。しかし、多彩な物性の本質的な理解にはたどり着いておらず、それ故にその応用展開も制限されている。本研究会では、この魅力的なナノカーボン材料に焦点をあわせ、その基礎物性の理解から応用技術展開まで、既存の分野カテゴリーにとらわれること無く、広く調査研究を行い、科学・技術の発展への貢献を目指す。構成委員を中心に、招待講演者も加えた研究会を開催し、討論に十分な時間を確保することにより、通常の学術集会では得られない熱い議論と深い理解の機会を提供する。気鋭の若手研究者の積極的参加を促し、ナノカーボン材料研究のさらなる発展を目指す。
水和ナノ構造研究会 委員長:日下 勝弘
(茨城大学フロンティア応用原子科学センター 准教授)
●研究会のコンセプト
サブナノメーターレベルで生体内機能を制御するタンパク質等の周りには、非常に多様な形で水が存在する。あるものは安定に水和し、あるものは運動し、そしてあるものはイオンの形で存在する。タンパク質や核酸DNAのように特定の大きな構造を持つ生体高分子と比べて、小さな分子である水が、生体高分子とどのように相互作用をして生命活動を成立させているかは、未知な部分が多い。たとえば、タンパク質やDNAが機能する直前の分子認識における水の役割、化学反応中の状態における水の関与したプロトンや水分子自体の授受および水素結合の形成・解消、そして、反応後の水の脱離やタンパク質・DNA分子への再水和・再配置、さらには膜タンパク質のプロトンポンプ機構におけるプロトン等の授受における水の役割のように、生体機能の中において、ナノスケールで重要な役割を、黒子のように、果たしている。このような水和ナノ構造の解明には、水素位置決定を得意とする中性子回折法が重要な役割を担う。まもなく1MWの最高出力を迎えるJ-PARCの中性子回折計(茨城県生命物質構造解析装置 iBIX)にて、各種酵素とその基質との複合体や膜タンパク質も含めた水和構造に関して、プロトネーションも含めた機能に直結した水や水素位置構造の解明を目指す。
本研究会では、上記iBIXのソフトウエアの改良や必要な大型結晶育成法も含めて、さまざまな実験分野のほか、計算科学研究者にも生体高分子中の水やプロトネーションについて議論を深めてもらい、関連分野の飛躍的な発展を狙う。